206人が本棚に入れています
本棚に追加
僕には自信が無い。人に向って魔術を使うということ。
ポーラはそれで……魔物相手にも魔術を使うことができなくって、冒険者としては使い物にならないって烙印を押されて、家族の元からも離れちゃったらしいけど……。
なんとなく気持ちはわかる。優しいなんていうきれいごとじゃない。
単に臆病。意気地が無いだけのこと……。
「次戦! 剣術科、魔術科連合チームより、アリシア・クラサスティス!
前へ!
総合科より、プラシ・ジャクスマン、前へ!」
審判は魔術科の担任の先生だ。うちの魔術担当教師のグスコじゃなくて、それはひとつの不安材料が消えたんだけど……。
「初め!」
「では、よろしくおねがいします!」
アリシアが、一礼する。決意の籠った表情。
ルートから聞いた話だと、アリシアは入学したのはギリギリでだけど、努力で代表を勝ち取ったという。
アリシアの顔を見て決意が固まる。
女の子になんて負けてられない。魔術の技量(うで)はともかく、覚悟の面で。
僕だって……、僕だって必死で練習してきたんだ。シノブが作ってくれた良い流れ。
断ち切っちゃうのは申し訳ない。
「ナームダ・ト・キーヴォ・ノル……」
アリシアが詠唱を始めた。火属性? 精霊の高まりを感じる。
オーソドックスな魔術ではない。だけど、上級という感じでもない。
負けては居られない。僕にだって中級魔術は使える。
魔術戦は後攻有利。属性の相性を考えられるからだ。
火には水。
水ではなく氷。炎を打ち消して、さらに相手にまで届かせる。
僕も詠唱を始める。
最初のコメントを投稿しよう!