第1章

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アナウンスが終了し、部屋のドアが開く。ヨウはまだ部屋の外には出ず、気持ちを落ち着けていた。なぜ、こんなことに巻き込まれているのかは分からないが、とんでもない事態にいるということだけはたしかなようだ。 ヨウは詐欺師で培った冷静さを活かし、まずは状況を分析してみた。詐欺師は誇らしいといえる仕事ではない。だが、世間一般が考えているほど簡単なものではないのだ。ターゲットに目星をつけ、下調べをし、確率を導き出す。どれくらいで成功するかという確率を。もちろん、その確率の算出方法など存在しない。すべてはヨウ自身の経験則により、導き出される。 たしかにヨウは、奇妙な場所へいつの間にか移動させられ、アナウンスで告げられたゲームとやらに巻き込まれた。現実的に考えると、ありえない。冷静に考えてもこのような非現実的なことは絶対ありえない。ということは、これは何を意味するのか。簡単なことである。それは、「夢」ー。俺は、いま夢の中にいるということが分かった。 夢かどうかを確かめるには簡単なことだ。お決まりパターンでいけば、自分のほっぺをつねる。だが、俺はそんなダサいことはしない。どうせ、夢なんだから、もっとその夢を楽しませてもらおう。夢の雰囲気を存分に味あわせてもらおうではないか。そうだ! ドアから外へ出ていくのではなく、あの壁をぶち壊して外に出ていくのはどうだろう?我ながらいい案だと感心する。そうと決まると、ヨウは壁を壊すために体勢を整えた。 「いくぜぇっー」 ヨウは思いきり加速をつけ、壁に向かってパンチを繰り出した。 「ぎゃあっー」 「イテー!イテーよ!!」 大の男がだらしなく、のたうちまわった。まあ、夢だと思い、全力でパンチを放ったのだから仕方ない。みるみるうちにパンチを打った手は腫れ上がっていった。 「へ? なんだこりゃ?」 ヨウは見たこともないくらい自分の手が腫れ上がっているのを見て、驚愕した。顔は真っ青だ。あまりの痛みと、手の腫れをみて、気が気でなくなったヨウは、いつしか気を失い、しばしの間、ほんとうに夢の世界へと旅立った。
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