第1章

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「腹へったー。カレー食いてー。牛乳飲みてー。」 ヨウは、ぶつぶつと独り言を言いながら、歩いていた。喉は渇き、お腹が空いていたのは事実である。しかし、独り言をぶつぶつ言いながら歩いていたのはもうひとつ理由があった。 夢だと思っていた出来事が現実だと分かり、自分に起こっていることを受け入れようとした。そして、部屋の外に出てみると、周りは廃墟だらけ。いまのところひとっこ一人見当たらない。アナウンスで言っていたとおり、本当にゲームに参加させられている、正確には本意でないのだから、ゲームに巻き込まれているだろうことはようやく理解することができた。夢だと思い、思いきりパンチを壁に放ち、大きく膨れ上がった手、何も食べておらずエネルギー切れ間近を知らせるようにグーグーグーグーと鳴るお腹、声も出しにくくなるくらい渇いた喉。詐欺師で培った分析力に自信があるヨウだが、それを冷静に分析し、置かれた状況を把握していくにつれ、恐怖を感じていた。正直、頭がおかしくなりそうだった。だからこそ、独り言と分かっておりながら 「手がイテー」 「お腹すいたー、カレーくいてー」 「喉かわいたー、何か飲みてー」 など軽く声を出し、平静さを保つ必要があったのだ。もし、独り言を言わず、だんまりしながらこの廃墟の中を歩いていたらヨウ自身おかしくなるかもしれなかった。なので、ぶつぶつと独り言を言いながらヨウは、廃墟のなかにいま自分が置かれている状況をさらに把握できる材料になるものはないかを見落とさぬよう隅々まで目を凝らしていった。すると、少し先に赤いボタンのようなものをヨウは発見した。 ヨウは、このゲームをもちろんすべて信じたわけではない。殺すとか殺されるとかそういった類いに関しては、まだ信じていない。ただ、赤いボタンをみたときルールを思い出した。 「たしか、ボタンを押したら質問できるってことを言っていたよな。」 ヨウは、いまの状況を打開するためにボタンを押してみようかと思った。だが、このボタンを押すことで、自分が万が一に狙われたり、自分のいまいる場所が誰かに知られてしまわないかという不安があった。ヨウは、迷ったのだが、この先しばらく歩いても現状打開できる発見は期待できる可能性はとても低いように感じた。その根拠はない。ヨウ自身の勘である。そして、ヨウはボタンをそっと押したー。
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