第1章

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「由美ちゃんと再会しなければ、こんなことにならなかったのに!」 次第に翔子はそう思い、そう決めつけていった。置かれている状況を考えると、打開策がない現状を目の前にしたら、少しずつ精神を蝕み、人間性が変わっていく。翔子にもその前兆が出ていたのかもしれない。しかし、この現状を由美へ責任転嫁することは、ただの八つ当たりにしかすぎないことを翔子は気づいていなかったー。 とりあえず、翔子は気を落ち着けるために、バックから飲み物を取り出し、軽く口にした。喉は渇いていたのだが、飲み物も食べ物もこの先どうやって手に入れていくか分からないので、喉をうるおす程度に抑えた。お腹のほうは、この状況にたいする不安から空腹のはずなのに、全然それを感じなかった。精神的に落ち込んでいるときは、食欲なんて出るはずがない。しかも、食べ物といってもバックに入っているお菓子しかなかったので、空腹を感じなかったのは逆にありがたかった。そんなとき、何か上のほうから物音がしたー。 翔子が身を潜めているところは、廃墟のひとつの二階。この廃墟に入る前、ちゃんと数えていないが、おそらく十階ぐらいの建物である。この廃墟は昔、ホテルか何かだったことを思わせる原型があった。たしか、一階には大きな調理場らしきものがあって、二階にはたくさんの部屋がある。最初は、二階の周りを見渡せる中央部にいたのだが、見渡せる=見つかりやすいことに気付き、部屋へ移動したのだ。 聞こえた物音は同じ二階でなく、ちょうど翔子が身を潜めている部屋の真上あたりから聞こえてきた。 (三階、四階と様子を見ながら上がっていくべきなのかしら…) 翔子は迷った。そして、まずは先程聞こえた物音がまた聞こえてくるかしばし待ってみることにした。もし、誰かいればまた物音がするはずだし、上の階へ行ってみればいい。翔子はそう考え、また何か物音がしないか耳を澄ませたー。
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