第1章

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「おじさん、誰ですか?」 纓田智也は、怖かったが、声をふりしぼって聞いてみた。印南勝也は、あとをつけていたのが、ばれたことを悟り、柱の影から出てきた。そして、智也の質問にこう答えた。 「ボーイ、どういう教育を受けたのかな?んっ?まずは、こういうときは自分から自己紹介をするもんだよ。分かったかな、ボーイ」 智也は、この言葉にイラっとしたが、いまは、冷静に答えてみることにした。 「はい。すみません。都内の高校に通っている纓田智也です。」 「ふんふん。やっぱり高校生か。高校生じゃないのかなーと思っていたんだよ、僕は。ボーイはいまどきの子どもにしてはなかなか素直だね。おじさんはねー。昔、色々、悪いことしてね。ボーイみたいに素直じゃなかったんだ。いま、もちろん立派な大人だけど…」 智也は、こういうタイプがすぐに嘘をつくことが分かっていた。多分、話の中で出てきた「昔は不良だった」みたいな言い回しをしているということは、昔は普通だったんだろうと思った。昔、不良だった人間は、自分が不良だったことを自分から自慢するように言わないはずだからだ。また、こういうタイプは話が長そうな感じがするので、智也は少し話を遮った。 「あの、すみません。俺は自己紹介をきちんとしたので、おじさんのほうからも、その…自己紹介みたいなことをちゃんとしてほしいんですけど。」 「そうそう。そうだったね。ボーイがしっかり自己紹介したんだから、僕もしっかり自己紹介しないとね。僕は会社を経営している。まあ、社長っていうのかな。社長ってボーイたちから見たら、楽に思えるでしょ?だけど、違うんだよ。社長はね。会社を切り盛りしないといけない。利益をあげないといけない。だから…」 (またかよ。) 智也は口には出さなかったが、心の中でそう呟いた。また、話がながくなる。しかも肝心の名前すら言っていない。 (しっかり自己紹介しないとね。とか言いながら、自分の名前を名乗らないとか普通ありえねーだろ) そう思いながら、智也は仕方なく、長い話に付き合わされるよりはマシだと、話を遮り、こう聞いてみた。 「話の途中で悪いんですけど、おじさんの名前聞きたいんですが。」 「しゅっ。しゅっ。そうだったね。僕の名前は印南勝也だよ。いなみかつやね。なかなか、かっこいい名前でしょ? ボーイはたしか、おだともや君だったよね?」
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