第1章

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勝也は外へでると、廃墟だらけであることに驚いた。とても不気味なところだと感じた。しかし、それと同時に「被害者チーム」の勝也は、一日目は「加害者チーム」が反撃することすらできないことを考えると、妙な嬉しさが出てきた。 勝也は廃墟の中を歩きまわり、鉄パイプをみつけた。 勝也は人を殴ったことはなかった。それは純粋に「人がいい」、「暴力は嫌い」という類いのものではなかった。それは純粋に「気弱」で「臆病」だったのだ。なので、自分の腕力で人を殺せる自信も、自分の腕力自体もなかった。本人はマラソンをしており、体力に自信はあったのだが、周りからみるとマラソンしているようにもみえず、ヒョロヒョロとしたその様相は貧弱としか言いようがなかった。ただ、その貧弱を「社長は年齢のわりに、スラッとしていてスタイルいいですね」という、社員のお世辞をそのまま受け取り、勝也は自分の貧弱さをスレンダーと思い込んでいた。ただ、それでも腕力に関しては自信がなかったのに変わりはないので、いま自分の目の前にある鉄パイプを手に取った。そのとき、相手から見えているか分からないが、勝也の視線の先には、数百メートル先に人影があるのをしっかりと捉えた。そして、勝也はゲームのルールを再度、頭の中で確認してみた。 ・一日目は「加害者チーム」は、「被害者チーム」に反撃することはできない。 ・自分自身を本来は加害者チームであるにも関わらず、被害者であると誤認し、誰かを殺した場合、その当人もその時点で死んでしまうこと。 ということは、ルールにないのだから「被害者チーム」である勝也が、間違って「被害者チーム」のメンバーを殺してしまっても死ぬことはない。ルールの説明であったのは「加害者チーム」なのに、「被害者チーム」と誤認し、誰かを殺してしまった場合だ。つまり、おそらく「被害者チーム」であろう、いや、「被害者チーム」の勝也にとっては喜ばしいルールではないか。勝也は、そう思い、先程の視線の先に捉えた人影に向かい、相手に気づかれぬようそっと、少しずつ少しずつ、距離をつめていったー。
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