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抜けるような青空の下、刈ったばかりの草の香りが風に乗って漂ってくる。
強くなり始めた初夏の日差しで立ち上る湿り気を交えながら。
「よかったわねぇ、昨日の雨がうそみたい」
「でもさすがに地面がまだ濡れてるわ。ヴェール、ひきずったらすそが汚れないかしら」
緑の芝生に敷かれた赤い絨毯の周りには、白い木製の椅子が何列にも並んでいた。
端に並ぶ椅子には一つ一つ、生花がリボンでくくりつけられている。
6月のガーデン・ウェディングを花で溢れたものにしたいというのが、新婦の意向だった。
絨毯の先には、これまた生花に彩られた低い祭壇が置かれ、その遠く向こうで、子供たちが笑い声をあげながら駆け回る。
「ちょっとアナ、そのドレスよごさないでよ!」
アナと呼ばれたピンクのシフォンのドレスを着た4歳くらいの女の子は、遠くから聞こえたその声に振り向こうとして、まさに転んでしまった。
「あああっ」 悲鳴より先に彼女の姿が視界から消える。
***
「う、うぇっ、うぇーん」
転んだ弾みで低地まで転げ落ちたアナ。いまやピンクの柔らかな布地はあちこち茶色になっていた。
「大丈夫?」
見上げると、2-3歳くらい年上の男の子が手を差し伸べていた。
「うわ、派手に汚しちゃったね。どこも痛くない?」
「うぇーん」
男の子はアナの手足に怪我がないか調べると、服についた泥や草を払い始めた。
「まあこの子ったら! これからお式なのに。どうしましょ!」
駆けつけた大人達の悲鳴は、泣いているアナには何の役にも立たない。
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