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小さなけんかをすることはあっても、二人の付き合いは順調だった。
高校4年生になってからのアレックスは、大学進学のための最終準備でますます忙しくなった。
出願願書を揃えたり、SAT(入試テスト)を受けたり、論文(エッセイ)を書いたりと、やることは山ほどあった。
アナの家もさほど裕福ではなかったが、男3兄弟のいるアレックスの家では経済的な余裕はまったくなかった。
今でもそうだが、当時も、大学に行くには1年で人一人分の年収が消えるくらいのお金がかかったのだ。
だから彼は奨学金を出してくれそうな大学を中心に受験準備をした。
そんな中でも二人は時間を作っては、公園や図書館で会っていた。
3月になり、優秀なアレックスの元にはいくつも合格通知が舞い込んだ。
その中で一番条件がよかったのは、カルフォルニアにある大学だった。
授業料が全額免除どころか、学部の研究プログラムに参加してスタイペンド(学生に支払われる給料) まで出るという。
そのプログラムには民間のスポンサーがついていた。
さほど大きくない会社だったが、最近積極的に中国に進出しており、アレックスが中国語を話すことも評価のひとつになったようだった。
3月とはいえまだ肌寒いある日のこと。
大学受験を終えた4年生はもうあまり高校にも来なくなるのだが、その日は後輩のサッカーの試合があったため、アレックスが来ると知っていて、アナは校庭で待っていた。
最近、彼の元気がないことをアナは感じ取っていた。おそらく、理由も。
「アレックス!」
試合は母校の勝ちに終わり、アレックスは久々に会った後輩たちやコーチと楽しそうに談笑していた。
だがアナの顔を見ると顔を曇らせた。
「一緒に、帰ろ?」
「ああ」
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