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もう数え切れないほど通った通学路。
公園に差し掛かったとき、アレックスは急に立ち止まった。
もう夕飯時を過ぎていて、あたりには人影がなかった。
「アナ」
「なに?」
明るいとはいえない彼の表情に内心不安を募らせながらも、アナはできるだけ明るい声を出して返事をした。
「僕はやっぱりカルフォルニアの大学には行かない」
「えっ、なんで」
「だってここから飛行機だけでも6時間だぞ? 時差と移動を考えたら丸1日かかる。次にいい条件を出してくれた大学なら、ここから車で2時間だ。会いに来ようと思えばいつでも会える」
「え、でも」
「僕はそんなに君と離れていたくない」
「でも」
「それとも君はそのほうがいいの?」
いいわけがないじゃない、とアナは叫びたい思いを押さえてアレックスを睨んだ。
彼がこの町を出るまでに、あと何回会えるんだろう。
そんなことを考えたくもなくて、自分の部屋にあったカレンダーを捨ててしまったというのに。
でもその遠く離れた大学の方が、条件もよくて、大学としての評判もよくて、彼のこれからの人生には絶対にいいはずなのだ。
、、、私とのことさえなければ。
「私だって、、、私だって」
そばにいてほしいよ、という言葉は言えなかった。
言えば彼はそうしてしまうことを知っていたから。
もうすぐこの人は遠くにいってしまう。
その事実を、アナは努めて考えないようにしていた。
まるでそんな懸念など存在しないかのように。
特に彼と会うときは。
だけど 「離れたくないよ」 なんて当の彼本人に言われてしまったら、、、。
唇を強く結んで俯いていると、視界に彼の靴が入ってきた。
「アナ」
次の瞬間、抱きしめられていた。
強く、強く、息をするのも苦しいくらいに。
「う、うぅ、、、」
もう感情が抑えきれなかった。
アレックスの白いシャツにいくつもの涙の染みが拡がっていった。
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