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母にはこっそりとアレックスの言ってくれたことを話した。
「パパにはまだ言わないのよ。もう娘を取られるのか、って騒ぎ出すと困るから」
そう笑いながらも、母は喜んでくれた。
「アナには大学のこととか、我慢させちゃったからね」
私もリハビリをがんばらなくちゃ、と不自由の残る腕でアナを抱きしめてくれた。
***
年が明け、予定通りアレックスは6月の卒業後、大学への奨学金を出してくれた会社にそのまま就職することになった。
医療保険への補助を含め、福利厚生もかなり充実した、いい条件での就職だった。
そうしてアナが大学3年生になって半年が立ち、アレックスはもうすぐ卒業を控える春のころのこと。
「お姉ちゃん、彼氏から電話~」
平日の夜に珍しいな、とアナは思った。
「はい、もしもし?」
「アナ?」 心なしか、アレクセイの声が掠れている。
「うん。どうかした?」
長い付き合いなので、電話の第一声だけで相手の心の状態がわかることがある。
「中国に行くことになった」
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