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彼の奨学金のスポンサーであった会社はもともと中国でのビジネス展開に力を入れていたが、今度上海に新しい拠点を作ることになった。
いまや世界経済の要になりつつある中国への重要な足がかりを作るために。
そのためには何人もの精鋭なスタッフが必要で、当然、中国語を解するアレックスにも白羽の矢がたったのだ。
大学の学費はもちろん、夏の間にも有給で仕事をさせてくれて、アレックスの潜在的能力を認め引き出してくれた会社。
嫌だとはとてもいえなかった。
今までは大きなアメリカ大陸の端と端、時差6時間の距離だった。
今度はさらにそれに間に太平洋が加わり、時差12時間にもなる。
上海への赴任は、短くて3年、長ければ5年以上になるという。
どうしてこんなことばっかり、、、!!
「ごめん、アナ。でも今までみたいに、できる限り会いに行くから」
(中国から? そんな簡単に帰れるものなの?)
「それで、落ち着いたら、また将来のことを考えよう」
(私にそちらへ行けとでも? こんな状態の両親を置いて?)
高い頂からの景色を夢見てしまったアナには、また谷底へ降りて行けと言われるのはあまりに酷だった。
「もういいよ、、、」
「アナ? アナ!?」
アレックスの声が終わらないうちに、泣きながらアナは電話を切ってしまった。
ツー。
通話口から聞こえる無機質な音。
アレックスは呆然として受話器を見つめたが、すぐにリダイヤルのボタンを押す。
だがいつまでも鳴り続けるだけだった。
「、、、」 唇を噛むアレックス。
彼は電話を切ると、パソコンを起動した。
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