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二人の “決まりごと” は守られなかった。
アレックスが中国へ行って、1週間がたち、2週間がたち、1ヶ月がたった。
彼自身が理解してなかったのは、社会人として働くのは、学生がパートで働くのとはまったく違ったレベルの働きを要求されるということだった。
アメリカは契約社会で、雇用も例外ではない。
結果を出さなければ、容易に首になる。
特に1年目はまだ試用期間だから、人一倍必死になって “この先の自分の可能性” を証明しなければならなかった。
さらに遠い海外という場で、時差もあれば通信事情も悪い環境という事情が追い討ちをかけた。
立ち上げチームの仕事は上海にとどまらず、毎週のように、地方への出張が重なった。
移動中はもちろん、地方での宿泊先では海外になど容易に連絡がつかない。
まだ中国のインターネット使用が爆発的に伸びる前の時代だ。
毎週金曜日に来るはずの連絡は来ないか、来ても 「生きてるよ。まだ今度連絡するね」 というような短信ばかりだった。
また連絡するね、と言われればアナは待ってしまう。
朝に晩に留守番電話を確かめ、メッセージを確認する。
鳴らない電話をそばに置いて待ったまま、眠ってしまったこともあった。
一昨日も。昨日も、今日も。
、、、まだ彼からの連絡が来ない。
本当に忙しいだけなんだろうか。
もしかして現地にステキな人でも、、、
いや、あの人は誠実な人だ。彼に限ってそんなことはないはず。
アナは必死になって、湧き上がりそうになる嫌な思いを押しとどめた。
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