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年が明けても状況はほとんど変わらなかった。
アナは4年生になり、卒業後の就職先を探し始めるが、長引く不況でなかなか決まらない。
ようやく面接にまでこぎつけると母の具合が悪くなって行けなくなり、結果的に不採用になることもあった。
妹のエリカは大学受験へのプレッシャーから精神不安定気味になり、心療内科に通うようになった。
忙しさに少し慣れてきたのか、アレックスは一日か二日遅れくらいで、毎週メールをくれるようになった。
「元気? 就職活動はどう?」
「うん、まあまあ」
アナは自分や身の回りに起きていることを詳しく話さなかった。
話し出すときりがなくなりそうだし、なにより1週間近く間があくメールでは、込み入った話題だと上手く会話が成り立つような気がしなかったからだ。
離れているとわからないことはたくさんある。
アレックスが犯した大きな間違いは、no news is good news - 便りのないのはよい便り - だと思ってしまったことだろう。
一緒にいたときは、アナは隠し事をするような娘ではなかった。
二人は小さなことでも、なんでもお互いに話した。そんな関係がすごく心地よかったのだ。
たった2歳とはいえ経験の差で、アレックスが相談に乗ってあげることもしばしばあって、アナはそれをすごく感謝していた。
どうして彼女がどんどん寡黙になっていってしまったことを、不思議に思わなかったのだろう。
どうして離れているのだから限られた時間でも、もっといろいろ聞いてあげなかったのだろう。
後になって、アレックスはそのことをとても後悔した。
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