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秋はあっという間に過ぎ、アレックスが太平洋を渡って、もうすぐ2度目のクリスマスが来ようとしていた。
「今度は必ず帰るから。アナに刺繍のすごく綺麗なチャイナドレスを見つけたよ。もちろんハンドメイドだよ!」
嬉しそうにアレックスは電話口で語った。
1年と7ヶ月ぶりに会う彼。
去年の寂しかったこの時期を思うと、やはりアナの中でじわりとではあるが、嬉しさが心の奥から沸き立ってくるようだった。
彼へのプレゼントはどうしよう?
そんなことを久々に考えながら、お店のショーウィンドウを見るのも楽しかった。
仕事は相変わらず見つからない。
成績の良かったアナは頼まれて近所の子供たちの家庭教師をしながら、履歴書を送り続けた。
そのメールはクリスマスの3日前に来た。
「地方の事務所で緊急事態が起きた。帰国が遅れるかもしれない。後で電話する」
後で、っていつだろう。
遅れるって、どれくらいだろう。
アナは湧き上がる不安に蓋をして、家族のための食事の支度を始めた。
電話は、夜中の1時近くに来た。
家族を起こすとまずいと思い、受話器を自分のベッドルームに持ってきていた。
向こうは、今、昼の1時のはずだ。
「アナ、ごめん、こんな遅くに、、、」
彼の声は急(せ)いていた。
「大体の状況が掴めた。現地に明日から1週間ほど行って、対応しなきゃならない」
ああ、、、。
手が冷えていくのを感じた。
「ほんとに、ごめん! この埋め合わせは、必ずするから」
動悸も胸が痛いくらい、強まってくる。
「来年になったら、なるべく早く休みをとるから、ね?」
期待なんか、したから、、、。
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