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2月になった。
中国の新年(旧正月)はいつもこのころに祝われる。
1週間くらいは、皆お休みモードで何も動かなくなる。
アレックスは上司と交渉してこの時に出張の用事を作り、アメリカに戻ってきた。
飛行機代を出してもらえるわけだから、アメリカで仕事もしなくてはならない。
でも故郷にまる1日は寄れるはずだった。
空港に降り立つと、その足でアナの家に向かった。
あれから、アナからはやはり電話もメールも来ることはなかった。
まだ、信じられない。
いや、信じたくない。
こんな風に終わってしまうなんて。
他に好きな人でも突然できたのだろうか。
いや、彼女に限ってそれはありえない。
ひたひたと忍び寄る諦めの気持ちと、いや、まだこの目と耳で確認しなければ納得できないという気持ちと。
せめぎあういくつもの思いを抱えながら、アレックスは何度も通った道を急いだ。
***
「お姉ちゃんはいません」
彼を出迎えたのは、妹エリカの冷たい言葉だった。
「頼むよ、1日かけて会いに戻ってきたんだ。話だけでもさせて?」
「そうじゃなくて、ほんとにいないんです」
アナは家庭教師を続けながら、手に職を持とうと、通信教育で史書になる勉強を始めていた。
もともと本が大好きだったアナ。
アレックスともよく読んだ本の話をしたものだった。
2月のこの週は、研修のため、アナは違う州に泊まりで出かけていた。
「どこなの、教えて?」
長旅と時差による疲れにもかまわずに、アレックスはそのままそこへ向かおうと思った。
「明日には向こうを出て帰ってきますから、すれ違いになるだけです」
明日、、、。
明日からは重要な会議がアメリカ本社であって、彼はそれに出なければならない。
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