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その夜から7日間、アレックスは文字通り、携帯電話を肌身はなさず持ち歩いた。
仕事中はポケットの中に。
シャワーを浴びているときはバスタブのそばに。
寝ているときは枕元に。
、、、けれど、その携帯が鳴ることはなかった。
中国へ戻る予定の日の前夜、諦めきれない彼は、タクシーをとばしてアナの家に再び寄った。
出てきたのはまたエリカだった。
「お姉ちゃんは今、家庭教師の仕事にいってますから」
アナの教え子たちは高校生だったから、仕事はたいてい夕方から夜にかけてだった。
「どこなの?」 必死だった。
「それは言えません。というか、」
下唇を噛んで湧き上がる感情をこらえるアレックスに、エリカは最後の一言を放った。
「返事がない。それがお姉ちゃんの返事だと、思いませんか?」
***
最後の晩は、空港わきのホテルに宿をとってあった。
大きな窓の向こうに、夜間飛行に備える飛行機のテールランプがちかちかと点滅する。
その点滅が、黄色くぼんやりとした形になり、滲んで見えなくなった。
「、、、っ、、、」
窓にもたれるアレックスの肩が震えていた。
ほんとうに、終わってしまったのだ。
なにもかも。
こらえきれない感情が溢れ出した。
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