302人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
***
「アナ、最近お母さんのようすはどうなの」
入荷した本の確認を追え、スタッフルームでコーヒーを手に一息ついていると、聞きなれた声がした。
「おかげさまで落ち着いているわ。ありがとう、ジョー」
「そうか、よかった」
そういうとジョーと呼ばれた目の前の高校生の男の子は、鞄からなにやら難しい数学の本を取り出した。
宿題をやるつもりらしい。
彼の母は1年前に乳がんだと診断された。
幸い早期の発見で、治療は苦しかったが順調に進み、今は落ち着いているようだ。
そのせいか、彼はアナの母のことも気にかけてくれ、時々様子を聞いてきた。
ジョーは父親は白人だが母親が日本人だとかで、深い灰色の瞳を持っていた。
その落ち着いた色あいの瞳や黒味がかった髪といい、ちょっとシャイなふるまいといい、あまりこの書店、Proseのオーナーであり父であるヴィンスには似ていない。
会ったことはないけど母親似なのかな、とアナは思った。
あの時、図書館で会ったヴインスに声をかけられてもう2年。
入ったときにいた店長は自己都合で退職し、早くも2年目にしてアナはこの店を切り盛りするようになった。
店長職はアナに向いており、大変ではあったが、とてもやりがいのある仕事だった。
Proseはユニークな本屋で、本を売るだけでなく本好きの人たちが集まって読書会やお茶会などが頻繁に行われていた。
そのため、店の一部はカフェになっており、常にコーヒーやお菓子が用意されていた。
大好きな本と、本を愛する人たちに囲まれた毎日。
アナは今が一番幸せだと感じていた。
、、、あの高校時代の、彼といた2年間を除いては。
最初のコメントを投稿しよう!