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アナの母はリハビリをがんばり、かなり回復していた。
元看護師としての、精神面の強さのなせるわざかもしれない。
アナが30歳になったとき、妹のエリカは結婚して隣の州に引越した。
やがてエリカたち夫婦に子供が生まれたので、母と父は孫たちの近くに住むことにした。
アナの一家は今まで住んでいた家を売りに出すことにし、アナはもっと職場に近いアパートに移った。
お金をもっと貯めて、そのうちマンションの1室でも買えればいいな。
節約するため、車は持たず自転車でProseに通っていた。
引っ越すとき、実家に残してきたアナの荷物をどうするか、母に聞かれた。
必要なものはもう持ってきてあるから、あとは適当に処分して。
そう伝えて、アナはアパートでのささやかな一人暮らしをスタートさせた。
***
アナがProseで働くようになって5年がたった。
最近また体調を崩した母の様子を見に、アナは月に一度、隣の州へ通っていた。
「皆こっちにいるんだし、越してくれば?」
エリカはそう言うが、アナはこの町を離れたくなかった。
別に、あの人がまたここに戻ってくるなどと思ったわけではない。
彼の家族も、もうこの町には住んでいなかった。
でもここは、いい思い出も、辛い思い出もある町。
なにより大切な仕事のある町だった。
この年はさらに高校卒業後15周年ということで、母校で大掛かりな同窓会が行われた。
その手のものはことごとく参加を断り続けてきたアナだったが、今回は友人が幹事ということもあり、顔を出さざるを得なかった。
33歳。友人の多くは結婚し、子供が何人もいる者もいた。
独身でいる者はもっと大都会に出て、キャリアを追求していたりした。
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