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故郷の小さな本屋で、家族ももういない町で、ひとり店長をしているアナ。
名刺を差し出すと、「えっ、あの本屋で働いているの?」 と意外そうに言われる。
、、、なら何をしていたなら、意外じゃなかったのか。
(これ以上好きになれる仕事はないんだから、大きなお世話よ)
1次会が終わったらすぐ帰ろう、アナはそう思いながら荷物をまとめ始めていた。
その時、元クラスメートの一人がアナに言った。
「ねぇ、あなたあのころ、上級生のアレックス・リチャードソンと付き合ってなかったっけ?」
アレックス。
その名を久しぶりに聞いたとき、アナの胸に鈍い痛みが走るのを感じた。
なぜ、いまさら。
「さあ。昔の話よ」
「いつ別れちゃったの?」
余計なお世話だ。
「実は最近、彼のうわさを聞いてね」
そんなこと知りたくない。
「今上海にいるんだって? なんか有名なテレコム会社、どこだっけかな、そこの重役のお嬢さんと結婚するんだって」
、、、、、、!
「それは、よかったわね」
普通に、言えただろうか。
声が、掠れていなかっただろうか。
あれからもう11年もたつんだ。
むしろ今まで何もなかったことのほうがおかしい。
それなのに。
それなのに、なぜこんなに抉られるような痛みが ---------
忘れていたのに。
忘れたと、思っていたのに。
アナは、ゆっくりと目を閉じた。
そして、すぅ、と気づかれないように大きく息を吸って、はいた。
大丈夫。
私は、何も感じてない。
心を守るために築いた壁を、さらに高くする。
私には、関係がないことだ。
自分にそう言い聞かせると、「じゃ、お先に」 と言ってバッグを掴んで、会場の店の外へ出た。
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