フラワーガールの恋

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*** 「捨てていいって言ったのに」 空き部屋の隅に積まれた段ボール箱に目をやりながら、アナはコーヒーカップをテーブルにことりと置いた。 「だってねえ。あなたの小学校のときの作文の賞状とか、中学のときに賞を受けたエッセイとか、いろいろ入ってるのよ~」 テーブルの向こう側で、母がため息をつきながら言った。 今日は久々に母を訪ねてきている。最近、看護師時代の勤務ぶりを表彰されたとかで、彼女はごきげんだ。 「そんなの別に見たくもないし」 「年をとったら、きっと懐かしく思うわよ。子供に見せたいと思うかもしれないし」 「子供だなんて、、、作る相手がいないわ」 「そう、それなのよ。ねえアナ、あなたもういくつだっけ、39歳? もうすぐ40よ? このままずっと一人で生きていくつもり?」 「だからもうそれは何度も言った。今は責任ある仕事を任されているし、べつに不満はないわ」 「でもずっと一人だなんて、寂しいわよ?」 「一人の方が気楽よ。へんな男のために家事とか育児とかしたり、何をどう分担するのかとか、義理の家族がどうとかこうとか、考えたくもないわ。結婚した友達から散々愚痴聞かされてるもん」 「へんな男って、、、。あれ以来、誰もいないの?」 母はアナがアレックスとずいぶん昔に辛い別れをしたことは、なんとなく気づいていたようだった。 「いないよ。今のままで十分幸せだから、心配しないで?」 大学を出てから今日まで、誰とも付き合わなかったわけではなかった。 でも、誰とも、手をつなぐ以上の仲にはなれなかった。 なぜなんだろう。別にあの人と比べているわけじゃない。 ただ、彼との時みたいに、どうしてもこの人じゃなきゃ、いっしょにいられなきゃいやなんだという、そういう気持ちが沸き起こってこないのだった。 、、、ずっとこのまま、一人なんだろうな。 それでもいいわ。
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