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「このディスプレイなんですが、お手製だそうですね」
目の前にマイクが突き出される。
「はい、うちのスタッフが工夫をこらしてやってくれました、、、ルナ、ちょっと、」
そういうとアナは手招きして、カフェで客と話をしていた女の子の店員を呼び寄せた。
ルナと呼ばれたその子はマリの紹介で、2ヶ月程前からProseで働き始めている。
日本から来てまだ1年もたたないらしく、英語はまだ心もとないが、なかなかの頑張り屋さんのようだ。
何よりアートの才能があるようで、あるとき、お店がもっと道行く人の目に留まるようにと、店頭に本をテーマにしてディスプレイを創った。
それが話題を呼んで、なんとローカルのテレビ局までやってきたのである。
初めは飾りだけで売り物を置かないなんて、スペースの無駄使いだと主張したアナ。
でもそのディスプレイが他の店員はもちろん、お店の常連客にまで評判がいいので、考え方を変えざるを得なかった。
(私の考えは、型にはまりすぎてたってことかしらね、、、)
Proseの店長になって13年目。
自分が一番この店のことをわかっているんだ、とちょっと思い上がっていたのかもしれない。
もっといろんな人の意見も聞かなければ、と思うアナだった。
(それにしても、)
本来こういうインタビューに答えるのは現オーナーのジョーであるべきなのに。
午後の便でパリに行くからと、さっきさっさと店を出て行ってしまった。
(まったくもう)
でもアナは知っている。
自分が最初、こんなものはいらないからと取り外させてしまったディスプレイを、翌朝すごく早く来て直していったのが誰だかを。
あの後自分も言いすぎたと反省して、直しておこうと翌日早朝に店にきたら、もうすでに作業している人がいたのだ。
その張本人のジョーは、空港のターミナルの待合室で、まさにそのローカルのニュースを見ていた。
(アナもルナも、なかなかテレビ映りいいじゃないか)
そう感心して画面を眺めるジョーの脇に、もう一人の人の足が止まった。
食い入るように画面を見つめている。
ジョーは不思議そうに、その男の横顔を眺めた。
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