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「アレックスー、ちょっとだけそこにいてね~」
そういうとその子の母親らしき女性は、Proseの奥にあるコンピュータ関係の本のエリアに行ってしまった。
アレックスと呼ばれた5歳くらいの男の子は、反対側の子供が遊べるエリアで、動く電車を熱心に見ている。
“ お子さんを退屈させずに、ゆっくり大人が自分のための本を選べるように ”
このコーナーのアィディアも、ルナの発想が元だ。
そんなに広い店内ではないから、そこに子供を置いていっても、充分親の視野には入る。
でも子供がいるときは、たいていマリかルナがそばについていた。
時には 「この絵本、面白いよねー」 と子供相手にちゃっかりセールスまでしている。
けれどこの時は、ママが遠くに行ってしまったことに気づくと、この男の子は激しく泣き出した。
「ママー、ママー!!」
「アレックス、ママを一緒に探しにいこうか」
ルナが男の子の手をとり、店のなかをきょろきょろする。
、、、あれ、ほんとにママらしき人がいない。
「アナ、アレックス君のママってどういう方かご存知ですか」
内心その名前の連呼は勘弁して欲しいと思いながらも、 「さっきコンピュータの本のエリアへ行ったわよ」 と答える。
そっちのほうを見るが、ママどころか、誰もいない。
「うぇぇえええ」 泣き声のボリュームがあがる。
「アレックス、ちょっと待ってて、店の外を探してみ、」
そうルナがいいかけたその脇に、誰かがさっと座りこんだ。
その人は泣いている男の子に、ひざまづいたまま、子供の目線の高さで話しかける。
「どうした、ぼうや。君もアレックスっていうのか。君のママなら、たぶんさっきトイレに入ったと思うぞ」
「ぇ?」
男の子が目をこすってその男性を見る。
「さ、一緒に電車のところで待っていよう。ママならすぐ戻ってくるから」
そう言って男の子の頭を撫でながらさっと目の前に立ち上がった男性を見て、アナはあやうく悲鳴をあげるところだった。
「、、、、、、!!!!!!」
彼はあの懐かしい笑顔で、アナのほうをまっすぐに見て、言った。
「アナ、ひさしぶり」
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