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「あのぼうやのママは?」
「あ、あの男性のお客さんがいうとおり、トイレに行ってました。いい方ですね、あの人。ママが戻るまで、アレックス君と電車で遊んでいたんですよ」
そういわれてゆっくりとあたりを見回すと、カフェで常連客と談笑するアレックスの姿が目に入った。
ドキッ。
コーヒーカップを手に、なんだか楽しそうに話している。
一緒にいる面子からして、話題は経済に関する話だろう。
(はぁー)
冷静に、冷静に。
そう思うのに、なんだかカフェの方から太陽でも差し込んでいるのかと思うような、熱を持ったウェーブが流れこんでくるような気がするのは、気のせいなんだろうか。
ちらっと目の隅で様子を窺ってみても、別に彼はこちらを見ているわけではないのに。
***
最近の売れ筋にそって、書架に並べた本の入れ替えを時々する。
今日はその日に当たっていた。
この美術書のあたりはあまり動きがないのだが、それでも客の関心を引くためにも時々レイアウトを変えることにしている。
アナは背が低い方ではないが、それでも高い位置の棚は、かなり背伸びしないと届かない。
脚立を持ってくればいいのだが、よりによってカフェの近くに置いてあるんで、彼の視界に入ってしまう。
仕方がない。
よっ、と手を思い切り伸ばしていると、背後から声がかかった。
「アナ」
この声は、、、!
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