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全身がフリーズしそうになる。
「はい、何でしょう」 冷静に、冷静に。
「元気にしてた?」
「ええ」 、、、ヤダ。
「ここの店長なんだってね。がんばっているんだね」
「、、、」 やめて。
「いつが休みなの。今度食事にでも行かないか。積もる話もあるし」
「、、、」 その懐かしすぎる声で、私に話しかけないで。
「アナ?」
「お、お客様とは店外でのお付き合いはいたしませんので」
振り返ることはできずに、背を向けたままそう言い放った。
できるだけ、毅然とした声で。
言いながら、手にしていた重い美術書を棚の一番上のあいたスペースにぐぃっと突っ込んだ、、、つもりだった。
が、手を緩めたとたんにその本が棚の端からはずれ、ぐらりとこちらに大きく傾いた。
「あぶなっ」
後ろからアレックスの大きな左手が伸びてきて、落ちかかった本をアナの手ごと、がしっと押さえ込んだ。
アナの背後から、ほとんど彼女に被さるように。
「、、、っ、、、」
彼の匂い、彼の包むような暖かさ。
薄手のシャツを着ていたって、わかる。
胸を貫く強い痛みに、アナは目を一瞬ぎゅっと閉じた。
そして目を開けると、自分の手に被さったアレックスの手が目に入った。
昔よく私の頬を包んでくれた、彼の大きくて暖かい手 ------------
そこには指輪がなかった。
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