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「あ、ありがとう、ございます」
「いや、、、大丈夫?」
本を戻してもらい、振り返って、初めて間近に彼を見た、というか、見上げた。
切なげにアナを見つめる視線に、耐え切れずにすぐ目を逸らしてしまう。
とはいっても、まだ本棚と、腕を自分の頭上に伸ばして本棚についた彼のあいだに挟まった状態だ。
こんな状況、もう倒れそうだ。
「食事がダメなら、お茶は?」
「お客さんとのお付き合いは店内だけです」
「もしかして、、、まだ怒っているの?」
「いいえ。もう過去の話ですから」
そして、ありったけの意思を動員して、一息おくと、アナは言った。
「すべて、忘れましたから」
目を見開くアレックス。
「俺は、、、」
何かを言いかけたが、目の前でぎゅっと目をつぶって俯くアナを見て、口をつぐんでしまった。
「、、、そうか」
そういうと彼は、「会えて嬉しかった」 とだけ言ってアナを開放し、踵を返すとカフェの方に歩いていってしまった。
(はぁあ~)
その場に残されたアナは、動揺のあまり腰が抜けそうだった。
だがハッと我に帰ると、店員たち、ルナやショーンの視線が気になった。
幸いにもこの場所はレジからは死角で、見られてはいなかったようだ。
今度はゆっくり気づかれないようにスタッフルームに行き、誰もいないのを確認するとソファにへたり込む。
(はぁー、、、)
もう一度、深いため息を吐く。
どうして、どうして、あの人は。
最後に会ってから、もう20年以上もたっているのに。
どうしていまだに、こんなに私を揺さぶるの。
どうして今頃、私の前に現れたの。
もう本当に、全て記憶の奥底に沈めてしまったと思っていたのに。
アナは自分の両腕で膝を引き寄せ、その間に顔をうずめてもう一度深いため息を吐いた。
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