302人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
***
アレックスは、それから毎週、週に何度か夕方から夜にかけてProseにやってきた。
とはいっても、あれからアナには話しかけては来ない。
目が合うと会釈はしてくれるが。
彼は来ると、いつも常連客が集まっているカフェのテーブルにまっすぐ向かう。
海外での経験が豊かなアレックスの話は面白いらしく、いつも笑い声やら驚きの声やらで、その一角は盛り上がっていた。
まるでもう何年も前からここに来ているかのように、すっかり常連客の話の輪の中に溶け込んでいた。
話しかけては来ないが、彼が店にいるときはあのウェーブが流れてくるおかげで、やはり気が散って仕方がなかった。
(まったく営業妨害だわ)
アナは理不尽な憤慨をこめた視線を、こっそり彼の後ろ姿にぶつけてみたりした。
それにしても。
― どうしてここに毎週来るの?
― もうこちらにずっといるの?
聞きたいことはいろいろあるのに、再会したあの日に崩せなかった心を覆い尽くす壁のおかげで、聞くきっかけを失っている。
いや、違う。
20年以上もかけて築き守り続けてきた壁を崩せば、今まで均衡を保ってきた自分の心がどうなってしまうか、、、それが予想できなくて怖かったのだ。
特に一番気になっている質問の答えが、わからないままでは。
― どうして、、、どうして指輪をしていないの?
最初のコメントを投稿しよう!