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ザァァアアアー
滝のような雨。
しぶきで、向こう10メートルより先はまったく見えないくらいだ。
(車で来ればよかった、、、。止むまで待つか)
今日はせっかく7時で帰れる日なのに。
見たかったドキュメンタリー、録画予約してくればよかったな。
「いやすごい雨っすねえ」
常連客たちも、諦め顔だ。
この時期のこの地方の天候は、変化が激しくて予測がつかないことが多いのだ。
雨はしばらくすると小降りになったが、止んではくれない。
自転車は諦めて、バスで帰るか。
そう思いながら、戸口から外を見上げたとき、後ろから声がかかった。
「送っていくよ」
聞き間違うはずのない、その声。
振り返らずに言う。
「いえ、大丈夫です」
「誰か迎えに来てくれるの?」
「え、いや、あの、」
どう答えるべきか一瞬迷っていると、さらにきっぱりとした声が飛んできた。
「送ってもらいなよ。せっかく俺がいるんだし、早く帰れる日は早く帰ったら」
この店の現オーナーのジョーだ。
「、、、」
「ね?」
にっこりと、でも有無を言わさないような笑顔で言われてしまった。
「、、、わかりました」
オーナー命令じゃしょうがない、と妙な言い訳を自分にして、裏口につけたアレックスの車に乗る。
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