302人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
***
「ここ、まだあったんだな」
結局二人が来たのは、遠い昔に二人で来た創作アメリカ料理屋だった。
大学生の舌にはおいしいと思えた料理も、今となっては目新しくもなんともない。
でも当時は飲めなかったアルコールを少し嗜めるようになったアナは、店の落ち着いた雰囲気も手伝って、思ったより早く緊張が解けていくのを感じた。
運転する予定のアレックスは飲まなかったが、それでも穏やかな顔で、ぽつぽつと話し続ける。
彼は1年ほど前にここからそう遠くない場所に開いた事務所を統括しに戻ってきた。
「戻ってきてすぐ君を探したんだけど、もう昔の家にいなかったし、わからなかった」
フェイスブックとかいろいろ当たったんだけどね、と彼は笑う。
自分と同じことをしてたのかと思うと、アナはなんだか可笑しくなった。
「空港で偶然目にしたローカルのニュースで、君を見たんだ」
え?
「書店の前に君が立っていた。女の子の店員さん、ルナっていうのかな、あの子は? 、、、彼女と一緒にインタビューされていた」
あれか!
「驚いて心臓が止まるかと思ったよ。1年近く探し続けても見つからなかったのに、こんなに近くにいたんだ、ってね」
そういうとアレックスは肩をすくめて、微笑んだ。
それからはアナの消息を聞くために母校の高校まで出向いてアレックスが聞き出した、他の同窓生や恩師の話で盛り上がった。
とてもこんな長い時間離れていたとは思えないくらい、楽しい時間が過ぎていった。
会計を、彼は割り勘にしてくれなかった。
「ダメ」
「で、でもっ」
私だってちゃんと稼いでいるのに。
「この次は、君が奢って。それならいいだろう?」
「、、、」
嫌だとは、心の中のどこをどう探しても、言えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!