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二人は、仕事の後、しばしば会うようになっていった。
常連客の一人が余ったからと券をくれたホラー映画に誘われたときは、予想したより遥かに怖い展開だったので、アナは椅子に張り付くようにしてこぶしを握り締めたまま、目を半分だけ開けて見ていた。
「怖い?」
そのこぶしをぽんぽんと、アレックスの手のひらが包みこむように軽く叩く。
「べっ、別に」
「無理することないよ。出ようか」
「えっ?」
映画館の外に出ると、アレックスはちょっと可笑しそうに言った。
「コワモテ店長アナにも、怖いものがあるんだ」
「な、なによぉ」 誰がそんな名称つけたんだ。
、、、って、影でそう呼ばれているのは知っているけど。
「いいじゃないか。意外性があるほうが、人間としては魅力的だと思うよ」
そう言われると、これ以上抗議できない。
そのあと、「今日は私の奢りね」 と、アナの提案でこの町で一番の中華料理屋に行った。
「どう?」 と聞くと、
「おいしいけど、向こうで食べるものとは少し違うね」
「どんな風に?」
「うーん。そうだな、、、。今度作ってあげるよ」
「料理なんかするの?」
「食べてくれる人がいるならね」
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