302人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
外はすでに土砂降りだった。
焦っているのか傘がうまく開かない。
いいや、もう、濡れて帰ろう。
アナがそう思ったとき、頭上から傘を差しかけられた。
「濡れるぞ」
「結構ですから!」
「アナ、」 酷く濡れたまま歩きだそうとするアナの腕をアレックスが掴んだ。
「放して!」
「アナ!」 自分の方に引き寄せる。
「また私を置いていくくせに!」
「置いていきたくないから、ついてきてくれと言ったんだ!」
「無理なのよ!」
「アナ!」 もうアレックスもずぶ濡れだ。
「放して!」 抵抗するアナを抱きすくめる。
「放してったら、」
「嫌だ!」
めったに語気を強めない穏やかな性格のアレックスから、初めて聞く怒鳴り声。
雨なのか涙なのかもうわからないぐしゃぐしゃのアナの顔を、アレックスの両手が包み込む。
「ごめんアナ、本当にごめん、、、でも本当についてきて欲しいんだ、、、」
そういうとアレックスは、冷たい雨で冷え切っているアナの額に、唇を押し当てた。
***
雨がようやく小降りになりはじめ、アレックスはアナを拘束していた腕を緩めた。
幸いにこんな天気なので、人通りもない。
でもふたりともずぶ濡れで、とてもタクシーなどには乗れそうにない。
アレックスの家ならここから歩いていけないことはなかった。
とにかくこのままでは体が冷え切ってしまっていて、風邪をひいてしまいそうだ。
寄っていってくれれば服を貸すから、そこから車で君の家まで送る、と彼は主張した。
「歩いて帰るわ」
「そんな格好で、一人でか? 冗談じゃない」
手を離してくれない。
根負けしたアナは、アレックスの家に寄ることにした。
入り口で靴を脱ぐ。パンプスの中まで水が入ってぐしゃぐしゃだ。
「熱いシャワーで温まった方がいい」 とアレックスが柔らかなタオルを渡してきた。
バスルームの鏡を見ると、雨で冷え切った顔は青白いのに、目は真っ赤なままだった。
「酷い顔」 思わずそう自分につぶやくと、苦笑がこぼれた。
最初のコメントを投稿しよう!