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リリリリリ、、、
今度ははっきりと目覚ましが鳴った。
ここのところ毎日残業続きだったし、遅めの出社のつもりでセットしたのは8時。
アナもいるし、たまにはゆっくり出社でもいいだろう、、、
アナ?
となりに朝方までいた彼女が、いない。
アレックスはがばっと起きて適当なものを体にひっかけると、寝室からダイニング、キッチン、バスルームとあちこちを探し回った。
はっと思いついて、玄関にいった。靴がない。
メモでも残してないかとテーブルを見た。何もない。
ふと思い出して、パソコンのキーを叩いて画面を見る。
画面はメールサーバーのままだったが、確かに今朝早くに書いたはずのメールが、ない。
消えている。
寝ぼけていたのか?
とにかく、アナが急に出ていかないきゃならないような事態でも起こったのかと思い、“どうして帰ってしまった、何かあったのか?” という簡単なメッセージを送ってから、出社の支度をした。
その日一日、時々携帯を見たが、アナからの連絡はない。
夕方になり、ついにがまんできなくなり、中国サイドを相手に出るはずだったビデオ会議をひとつ蹴って、8時には事務所を飛び出した。
閉店間際のProseはまだ客で賑わっていた。アナの姿は見当たらない。
「店長は?」
「あれ、さっきまでこのあたりにいたんですが」 ショーンが首を傾げる。
「アナなら奥だと思うよ」 ジョーがスタッフルームのほうに視線を投げた。
「用があるならどうぞ」
その声に甘えて、スタッフルームの中を覗く。
アナは顎に電話を挟みながら、何か書類をまとめていた。
「はい、その線でお願いします。遅くまでお疲れ様です」
ワイヤレスの電話を切ってスタンドに戻そうとして、入り口付近に立ち尽くすアレックスに気がついた。
一瞬目を見開くが、すぐに
「お客様、ここはスタッフだけしか入れないんですが。なにか御用でしょうか」
と抑揚のない硬い声で言ってきた。
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