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店を早退して母の元に駆けつけたあの日、何者かにProseの表のガラスが大きく割られたと聞いた。
一人で留守番をさせて怖い目にあわせたルナには、とても申し訳ないことをしてしまったと、アナは心苦しく思った。
でも、警察を呼ぶほどの大きな被害だったのに、店員と常連客の協力で、修復はたったの1日ですんでしまったとも聞いた。
一日も早くProseを元に戻したいと、片づけやら、差し入れやら、いろいろな手助けがあったそうだ。
それだけあの店が皆に愛されているのかと思うと、店長としてとても嬉しかった。
店に戻った日。
片付けをしてくれた人たちの中に、アレックスの姿があったと、ショーンから聞いた。
そうだった。かつて高校時代に、貧困家庭に行って家の修理を無償でするという活動を一緒にしていたんだっけ。
あの人は変わっていない。それなのに、私は。
、、、いったい彼の何を見ていたんだろう。
「これから6週間も中国に行くんだ、って言ってましたよ」
聞かれてもいないのに、ショーンはアレックスの予定を教えてくれた。
どうやらショーンにとって彼は、密かに尊敬している存在らしい。
アレックスに、謝りたい。
謝ってすむようなことではないのは、わかっているけれど。
20年前、彼の気持ちを無視し、それから20年後、彼の気持ちを踏みにじった。
どうしても、謝りたい。
それもメールなんかじゃなく、できれば会って。
いや本当は会うのはとても怖かったが、あんな酷いことを言ってしまって、メールでいまさらどう切り出していいのかもわからないのだ。
だけど、いつ戻ってくるのかはっきりとわからない。
思い余って、ある11月の週末の寒い夜、車で彼のマンションのあたりに行ってみた。
階数からして、あのあたりの部屋だろうか。
外から見た限りでは、真っ暗だった。
(やっぱり、、、)
まず会えないとわかっていて行ったのに、なんでこんなに落ち込んだ気持ちになるんだろう。
そんな自分に苦笑したアナは、それでも月曜日になったら彼の事務所に電話して、思い切っていつ帰国予定だか聞いてみようと思った。
もう彼が中国出張に行ってから、6週間以上過ぎているはずだからだ。
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