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その二日後のことだった。
アナが朝、出勤の支度をしていると、「急で悪いけど、少し早めに出て来れる?」 とジョーからメッセージが入った。
秋の朝の冷たい空気は嫌いじゃないので、マフラーを巻いて自転車通勤にするつもりでいたが、急ぐなら車だろう。
まだ朝のすいた道を車を走らせると、Proseの裏手の駐車場に車を停めた。
スタッフルームから店内へ向かおうとすると、人の話し声が聞こえた。
あれ? 開店前なのに、誰か他にいるんだろうか。
アナは思わず聞き耳をたてた。
一人はジョーの声だった。そして、もう一人の、この声は。
、、、忘れようにも忘れられない声。
心臓が痛いくらいに脈が早くなる。
スタッフルームの出口のところで、足が動かなくなる。
店の中に入る勇気が、出ない。
「そこにいるの、アナ?」 ジョーの声がした。
「アナだろ?」
目をぎゅっとつぶって、一歩を踏み出す。
息を吐いて目線をあげると、レジ近くに立つ男性二人が、自分のほうを見ていた。
「、、、!」
「アナ、久しぶり」
あの時と同じだ。穏やかな笑顔。
、、、あんなに、酷いことを言ったのに。
「昨日、中国出張から戻ったばかりだそうだ。開店準備は俺がするから、ちょっと二人で話してきたら?」
ジョーがレジ周りの整理を始めながら、言った。
「でも、」
「アナ、」 ジョーが静かに、でもきっぱりとした声で言った。
「ここは俺に任せてくれていいから」
ふたりは、黙って店を出て歩き出した。
「あ、、、」
なんだか寒いと思ったら、雪。
アナは手のひらを差し出して、そのひとひらを受け止めた。
「どこへ行く?」
「そうね、、、」
お互いに何も言わずに、なぜか二人の足はあの公園へと向かっていた。
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