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さすがに雪がちらつくような寒い朝には、公園には他に誰もいない。
噴水も今日は止まっていて、空っぽの瓶を持つ天使は、なんだか手持ち無沙汰そうにしている。
「寒くないか?」
「いいえ」
アレックスは自分の襟元にゆるく巻いていたベージュ色のマフラーをすっと抜き取ると、4つに折りたたんでベンチに敷いた。
「その上に座って」
アナは黙って言われたとおりにし、彼もとなりに座った。
二人の間には、やはりバッグひとつ分くらいの距離。
アナにはそれが、彼の感じている距離感のあらわれのような気がして、悲しかった。
お互いに顔も見ず、前を向いたまま、アレックスは話し出した。
「ジョーには中国関係の書籍のことで、アドバイスを求められていた。それで昨日帰国してすぐにメールしたとき、君が今日は早く来る予定だから、と言われたんだ」
そうだったんだ、とアナは声に出さずに思った。
「もう俺なんかには会いたくなかっただろうけど」
その言葉に、思わずアナは彼の方を見たが、アレックスはこちらを見てはいなかった。
「再来週、発つことにしたよ」
え、、、? 来年じゃなかったの?
アナの心の中の疑問の声が通じてしまったのだろうか。
アレックスは、初めてこちらを見て、微笑して言った。
「赴任を早めてもらったんだ」
え、、、?
「、、、ここにいても、思い出がありすぎて、辛いだけだから」
嫌だ。そんなこと、言わないで。
そう言いたいのに。
声が、出せない。
、、、まだ謝ってすらいないのに。
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