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「でもあっちに行く前に、どうしても君に渡さなければならないものがあって」
そういうと、アレックスは、コートのポケットから青紫(ブルーラベンダー)色のビロードで包まれた、小さな箱を取り出した。
「君のママに会ったんだ。亡くなられる少し前にね」
「、、、」
「優しい、いい人だった。君がママのためにここに残りたいという気持ちが、よくわかったよ」
「、、、」
アナは鼻の奥がつんとしてくるのを感じた。
「これ」
アレックスは青紫色の箱をアナの方に差し出した。
「君のママからの預かりものだ。俺から渡してくれって」
震えそうな手でその箱を受け取り、ふたを開けてみる。
予想通り、中には小さいが、美しくカットされて幾重ものきらめきを放つダイヤの指輪が入っていた。
ずいぶん昔だが、見た覚えがあるような箱だったからだ。
――― ママにとって、パパとアナとエリカとのステキな家族ができるきっかけになった指輪よ。アナにそういう人ができたら、もしよければその人に譲ってあげたいなと思うの ―――
、、、そんな言葉と共に。
当時の幼いアナには、なぜ指輪をもらえるのが自分じゃなくて、 “その人” なんだろうかと不思議に思えたが。
ふっ、とアレックスが軽く笑う気配がした。
「俺が君の前でリングベアラーになったのは、これが2度目だな」
そういえば、とアナも苦笑する。
「できれば、、、はめる方になりたかったけど」
そう切なげに言うと彼は立ち上がり、じゃあ、と手をさしだした。
溶け残った白い雪が、彼の肩に少し積もり始めている。
「もうこれで君に会うのは最後にするから。、、、元気で、」
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