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アレックスは手を伸ばして、アナの膝の上に置かれた青紫色の箱を取り上げた。
「アナ、やっぱりこれを君の指にはめたい。これからどうするかは、二人で考えよう? ひとりで決めてしまうんじゃなくて」
「、、、うん」
「20年も回り道してしまったけど、」
アレックスはかじかむ指で台から指輪を外そうとする。
「だからこそ、もう1日だって無駄にしたくないんだ」
なんとか外した指輪を、アナの目の前できらめかせると、雪がひとひら、ダイヤの上にふわりと乗った。
「アナ、俺と、結婚してください」
「、、、はい」
差し出された薬指に指輪をはめたアレックスは、もう一度アナの唇にキスを落とす。
そして 「もう絶対に離さない」 と耳元で小さく叫んで、彼女をまた思い切り強く抱きしめた。
***
もう外は降る雪でかなり路上も白くなり始めているのに、あの二人は帰ってこない。
傘、持って行ったっけ?
ジョーは外を見やって勢いを増し始めた雪を気にしながら、本を買うお客さんの相手をしていた。
「ありがとうございました」
客に挨拶してふと目線をあげると、向こうの方から、朝方ここを出て行った二人の姿がこちらに近づいてくるのが見えた。
二人の手はしっかりと握られていた。
ドアをあける前にジョーの視線に気がついたのか、その手がパッと離される。
「ごめん、ジョー、傘持っていかなかったんで、雪だらけになってしまったわ。ちょっと裏で着替えてくるわね」
店の入り口付近に立つアレックスに、「じゃあね」 と言うと、アナはスタッフルームのほうへ行こうとした。
「アナ、ちょっと」
ジョーが引きとめた。
「何?」
「左手のそれ、」 目線を彼女の左手のほうに投げる。
「あ」
アナがちょっと恥ずかしそうにその手を隠す。
「おめでとう、って言っていいんだよね?」
「え、ええ」
なんだか照れくさいアナは、早くこの会話を終わらせようとまたスタッフルームの方へ歩き出した。
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