1393人が本棚に入れています
本棚に追加
その時、黒くて大きなものが、二人の視界をスッと横切った。
「おーッ、ここにおったんか! ちんまいから見えへんかったわあ!!」
突然響いた大きな声に、周りにいた人達はビクッとなり、一斉に声がした方へと顔を動かす。
つられるようにして視線を向けたヒナが、あっと声を上げた。
「ルカちゃん!?」
ヒナの顔に、ぱあっと喜色が浮かぶ。
すうっと目を細めた樹は、現れた男を見て手放しに喜ぶヒナの姿に、口の中で鋭い舌打ちを鳴らした。
ヒナの関心を引く男は、夏なのに薄手の黒いコートを羽織り、同じく黒のジーンズ、肌も小麦色、サングラスも靴も全て黒。
見た目の印象は『黒』一色だった。
――――コイツがヒナの憧れの男か? ……忌々しい。
ヒナと男に視線を流しながら、樹の顔から表情が消えてゆく。
「おっきなったなー! って言おう思ててんけどな? 昔と全然変わってへんのはなんでやろか?」
男は、彫りの深い顔を喜色満面に崩しまくり、犬歯の覗く大きな口を広げてニパッと笑う。
「あ、樹くん、この人が高梨瑠伽さん! 凄い画家さんなの! で、ルカちゃん、彼が鷹城樹くんです」
ヒナはふたりをニコニコと紹介した。
「はじめまして、高梨さん。ボク、鷹城樹と言います」
お前、今すぐどっか行け。という本心を瞳に乗せて、樹はニコッと微笑んだ。
「おお! 聞いてるで! めっちゃ天才児おる言うて社長から聞いてる」
樹の露骨な拒絶などものともせず、ルカは「この子が噂の天才児かー」と、動物園のパンダを見るみたいにジロジロと無遠慮な目を向けてくる。
にこにこ微笑みながら、樹のこめかみにはくっきりと怒筋が浮かぶ。
「ちなみにボク、ヒナの彼氏です」
それ以上ヒナに馴れ馴れしくすんなと、樹は二人の間に割って入り、牽制の言葉を吐き捨てた。
最初のコメントを投稿しよう!