波乱なるセブ

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 日焼け止めを塗って貰ったヒナは、樹達とは少し離れた波打ち際にしゃがみ込み、無心になって穴を掘っていた。  その必死な姿を、パラソルの下で、樹と徹は眺めていたのだが。 「ヒナちゃんってさあ、寧音ちゃんみたいに超美人でもないフツーな容姿だし、頭超悪いし、行動もバカ丸出しな粗忽者だし、スタイルだけは悪くないけどさ、それだけじゃない? あんな天然お花畑なガキ、どこがいいの?」  徹は黒いサングラスのブリッジを指で押し上げながら、樹に問うた。 「……徹ちゃん、ホントに身も蓋もないよね。ボクのヒナに、なに容赦ない文句言ってくれてんの?」  隣で暴言を吐きまくる叔父に、樹は冷ややかな視線を送る。  徹は、ははっと肩を揺らせた。 「いやー、普通に思うっしょ? いっちゃんみたいな逸材、時代の寵児には、もっと賢くって美人な娘いっぱいいるじゃない。なんでよりにもよって、アレ? 十人並みもいいところ、下の下だよね」 「黙れよ。ボクはアレがいいんだ。あの、バカで可愛くて素直で汚れてなくて、ボクとは対極にあるヒナがいい。ヒナしかいらない。これ以上ヒナのこと悪く言ったら……徹ちゃんでも許さないよ」  侮蔑の視線でヒナを射る徹に、樹ははっきりと言い切った。  ヒナには決して見せない、厳しく凄然とした双眸で、樹は徹を恫喝する。
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