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「うわっ、怖っ! オレはいっちゃんには相応しくないって思うだけでー悪気も他意もないんだよー?」
「悪意と他意の塊じゃない、徹ちゃんなんて」
「オレの主成分は善意で出来てまーす」
ハーイと片手を挙げながら、徹は邪気のない笑顔を振りまく。
樹は白々とした顔で、徹を一瞥し、ひと言。
「死ね」
吐き捨てると、ふいっと視線を逸らせて、またヒナに戻した。
「樹くーん、また貝見つけたよー!」
ぶんぶん手を振りながら、ヒナは一々樹に報告してくる。
樹も手を振り返す。
彼女はまるで幼い子供のようだと、樹は吹き出した。
「ああ、分かったかも。あれだよねー。純粋無垢な綺麗なものってさ、自分の手で穢したくなる。そんな気持ちでしょ? うん。それならオレも理解できるわー」
徹はようやく理解できたとばかりにうんうん頷いている。
樹は、徹のセリフに何か言い返してやろうと口を開いたが、返す言葉が見つからず、口を噤んでしまう。
あながち間違ってもいないと気付いたから。
口を閉ざした樹を見て、徹はふっと片微笑み、ひっそりと呟いた。
「でもさー、そのお綺麗なものが自分以外に穢されちゃったりしたら、案外興味ってなくなっちゃうものなんだよねえ」
不穏な言葉に、樹は眉をひそめた。
樹の様子を横目で見ながら、
「……やっぱりいっちゃんは総兄にそっくりだー」
徹はなぜか淋しそうに小さく笑った。
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