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声を潜めたヒナの訴えに、樹ではなく徹が反応した。
「あ、オレなんて空気だから、気にしなくて良いのにー。それにヒナちゃんって、賢くないからバカであってるよねー」
お前の基準は賢いかバカの二択のみか、と言いたくなる発言をする徹に、ヒナはじわりと視界が歪んだ。
「みんなでよってたかったバカバカ言わないでよ……そんなこと……知ってるし」
くしゃっと顔を歪めたヒナの目からはポロポロと涙があふれ出す。
パーカーの裾をキュッと握りしめて、ヒナは潤んだ目でふたりを睨んだ。
やりすぎたという後悔を滲ませながら、樹はヒナに手を伸ばす。
その手を徹が掴んだ。
振り払おうとする樹の腕をねじり上げて、徹はさらに、笑顔でヒナに牙をむく。
「バカって認めてるだー? 自覚あるんだったらさあ、将来有望ないっちゃんのこと、さっさと捨ててくんないかなあ?」
悪意に満ちた彼の視線に、言葉に、ヒナは呼吸を忘れて、愕然と徹を見つめた。
樹も、何を言い出すのかと警戒した面持ちで徹を睨め付ける。
「……ずっとキミのこと見てたけど。全然ふさわしくないんだよねえ。鷹城家、鷹城コンツェルンの跡取りである樹の隣に立つ女としては。なーんの取り柄もないヒナちゃん程度の女なんて、そこら中に掃いて捨てるほどいるレベルだし、不釣り合いすぎて何の冗談だって言いたくなる。不愉快なんだよね。……自分でも釣り合ってないって思わない?」
すうっと眇められた徹の双眸には、ヒナに対するはっきりとした侮蔑が浮かんでいる。
まるで塵芥、害虫を見るようなその目に、ヒナは本気で怖気上がった。
「黙れッ、徹!」
振り上げられた樹の足を、徹は腕を掴んだ反対の手で受け止めた。
そして、酷薄な笑みをその唇に浮かべて、毒を孕んだ声で、甘く囁いた。
「邪魔。さっさと別れちゃってよ。その方が身のためだ。……ねえ?」
冷然とヒナを見下す徹の眸から視線が逸らせない。
瞬きすら忘れたヒナの眸から、涙がひとしずく零れ落ちた。
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