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「……下品な乱暴者。いっちゃんに何かしたら、毒、盛るよ?」
冷ややかな声に、ヒナはビクッと体を竦ませた。
忌々しげな双眸でルカを睨み付ける徹は、中性的な容貌からは想像がつかないほどの凶暴さを全身に纏わせている。
徹を捉えた樹の顔が強張り、感情そのものがそぎ落とされてゆく。
「……徹。お前と話がある。後で顔、貸してもらうよ」
淡々とした声だったが、樹の双眸には隠しきれない激情の焔がちらついてみえる。徹は片唇を歪ませて、小さく笑った。
「りょーかい。ボス」
先ほどのやり取りなどなかったような顔で、徹はヒナに向き直り、ニヤリと唇を歪ませた。
「ヒナちゃん、さっきはゴメンねえ。自覚してて当然なこと言っただけなんだけど、まさかガキみたく泣かれるなんて、自覚ない本物のおバカさんだったなんて、思ってなかったからさあー。……おっと」
樹とルカから伸びた拳を、徹はすんでの所で躱す。
「ほんま無礼な男やな。オカマみたいなツラにムカつく喋りしやがって」
「……オラ、黒犬。誰がオカマだって? 口の聞き方に気をつけな。二度と開かないようにしてやろうか」
ルカの嘲りの声に、徹は低いドスの効いた声色で、仄暗さの中に残忍な光りを滲ませた双眸で、威嚇する。
ルカは嘲笑を滲ませながら、徹と樹を見据えた。
「お前如きに啓太さんの娘、罵る権利はないなあ。樹くん、その躾がなってへんお綺麗なツラした犬の飼い主、キミやろ? これ以上ヒナ傷つけるんやったら、キミも含めてヒナに近寄ってほしないんやけどな。なあ、大企業の御曹司くん?」
ルカは自分の背にヒナを隠すようにして、ふたりに視線を流す。徹が放った言葉尻を掴み、樹こそがヒナに相応しくない、身分違いだと暗に示唆する。
樹はギリと奥歯を噛みしめた。
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