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「ホンマにそれでええのん? さっきの話、こそっと聞いとったけど。そのオカマ野郎の言葉、どないすんねん」
「うん。今の私じゃダメだよね。徹さんが樹くんを心配する気持ち……よくわかる。だから私、」
言いかけたヒナの言葉を、畳みかけるようにして樹が遮った。
「いいんだよ! ヒナは今のまま、変わらなくていい。変わる必要なんてない! そのままで、ボクの隣にずっといてくれるだけでいいんだ」
吐露される樹の本音に、ヒナは目を見開いた。
嬉しかった。
今のままの自分を求めてくれている。
変わることを望んでいないという、甘い媚薬にも似た彼の言葉に、揺れてしまう。
――――でも。
今のままでは、樹の隣には立てない。
これから先、自分の存在を誰にも認めてもらえなくなる。徹の言う通り、今の自分ではダメなのだ。
胸を張って、樹の彼女だと言いたい。
でも、まだ言えない。未熟すぎる今の自分では樹に相応しくないのだと、徹の言葉ではっきりわかった。
「樹くん。それじゃダメなんだよ。私、頑張る。徹さん、私、まだまだ全然ダメです。考えが足りないし、バカだし……このままじゃ私、この先もずっと樹くんの隣に立てない。だから、お願いします。私に色々教えて下さい」
ヒナは徹に向き直り、頭を深く下げた。
そしてもう一度、お願いします! と決死の覚悟で頼み込む。
徹は殴られた頬を擦りながら、意外そうな顔でヒナを見下ろした。
「は? 何言ってんの、ヒナちゃん。さっきボロっかすに言われたのに、オレに、それを請うの?」
ヒナはハッと顔を上げた。その眸に縋るような色が浮かぶ。
「迷惑だってわかってます! でも、他に頼める人……いないので、どうか、」
「ボクがいるだろ」
すかさず樹が割って入る。徹になど頼るなと、ヒナを窘めるように言う。
そんな樹に、ヒナは首を振った。
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