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「じゃあー。早速ヒナちゃんに試練ですー。ここからはひとりだけでホテルに戻って来てくださーい」
はい、これガイド。と、徹はカバンから日本で買ったであろう、セブ島のガイドブックと電子辞書をヒナに渡した。
がんばります! と、ヒナは受け取ったものを大事そうに抱え込んだ。
「はあ!? ヒナは英語すら話せないんだぞ! 無理だ」
あり得ないと、樹が徹の腕を掴んで食ってかかる。掴まれた腕を振り払った徹は、甘いなあと嗤いながら、露店が並ぶ通りに視線を流す。
「本人出来るって思ってんでしょ? だったらいーじゃん。ホテルまでは人も多いし、ヒナちゃんだって危険だと判断したら大声ぐらい出せるでしょ。オレ達はタクシーで戻るから。ヒナちゃんは自力で戻っておいでー」
「あ、は、はい!」
「ハイちゃうやろ!? 言葉もわからへん土地勘もない、そんなん日本でも迷子なるやろが!」
さっさとタクシーを拾いに大通りへ行こうとした徹の後ろで、ルカが焦った声を上げる。
ヒナはゆるりと首を振り、否を伝えた。
樹とルカ、ふたりでなんとか説得しようとするけれど、ヒナが首を縦に振ることは無かった。
背後で繰り広げられる喧々囂々とした男達のやり取りに、イラッとした徹が振り返る。
「ホント過保護だねぇ。ガイドと電子辞書渡してるじゃない。コレ使って帰って来いって行ってんのー。オレってば超優しー。あ、忘れてた。これ紙幣ね。んで、刻限は18時だから。遅れたら即アウトー」
徹は、男ふたりに「ホラ、さっさと行く」と促すが、ふたりとも動こうとしない。
ここへ置いてなど行けないと、樹はヒナの肩に手をかけた。
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