1393人が本棚に入れています
本棚に追加
「ボクはヒナと行く」
「ダメ。樹くんは先にホテルに帰って待ってて。ね?」
「オレは? オレもあかんの? ヒナの護衛するで?」
樹との間に割って入ってきたルカにも、ヒナはダメだとはっきり断る。
「ヒナ、言ったよね? 海外は怖いんだって。ここだって例外じゃないんだよ。徹の言うことなんて聞く必要ない。ね? ヒナ」
「そうや。こんなんあかん。納得でけへん。な、ヒナ」
「お願い。私、ひとりでやってみたい。助けてもらってばかりじゃ意味がないんだ。大丈夫だから、ね?」
ヒナはふたりに懇願する。
せっかく徹が協力してくれると言ってくれたのに、試練という名のチャンスを与えてくれたのに、その気持ちを無下にしたくはなかった。
ヒナの言葉に、樹は愕然とした。
「……ヒナ。ダメだよ、それはダメだ」
不安に揺れる眸で、樹は必死でヒナを掻き口説く。
けれど、やはりヒナは樹の訴えを聞くことはなく、ただ、首を左右に揺らすだけ。
「樹くん。私ね、昔っからずっと、何も出来ないみそっかすだったでしょ? クラスメイトにいじめられたり、泣かされたり、いっぱい失敗したり。でもね」
そう言って嬉しそうに笑うヒナに、樹とルカは眉をひそめた。
ヒナが何故、今この場面で、そんな顔をするのか理解できなかったから。
ふたりの怪訝な様子に苦笑しながらも、ヒナは、自分がいちばん好きな、亡き父が残してくれたその言葉を。
そして、何より今のこの状況に最も相応しいであろう言葉を、ふたりに伝えた。
「やってみなきゃ、わからない。だよねっ」
――――最初から出来ないと決めつけていてはダメ。何も進まないし、始まらない。何事もやってみないとわからない。失敗しても良いから、自分がこれで良いと思ったことをやってみてごらん、ヒナ。
父の言葉が蘇る。
大丈夫。そう言って、ヒナは満面の笑みを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!