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秘密兵器。それは、徹が貸してくれた電子辞書。
使い方が分からなかったので、歩きながら適当に押していたら、電子辞書から音声が流れたのだ。
『これを下さい』
ヒナは英語を話すことが出来ない。でも、電子辞書に登録された例文を選択したり、自分で文字を入力したりすれば、音声として質問したい言葉が英語変換されて流れてくるという優れものだった。
この機能を使って、昼食を買い、道を聞き、無事とは言えないかも知れないが、なんとかここまで来ることが出来たのだ。
――――やってみないとわからない。
「いつも失敗してたけど、今度こそ成功させなきゃダメ。樹くんとルカちゃんが待っててくれてるんだから」
疲れを訴える自分を鼓舞するように、ヒナは呟く。
ヒナに出来ると思ったから、徹は自力でホテルまで戻ってこいと提案してきたのだろう。その期待に報いなければいけない。
顎を上げ、前を向いたヒナの顔には、不安はなかった。
灼熱の太陽がヒナを照りつけ、アスファルトからは照り返しの熱が足裏に感じられるほどに暑かった。容赦なく体力が奪われる。全身からは汗が吹き出し、体内の水分すら希薄になってゆく。
無人島でたくさん遊んだこともあり、疲労感はハンパなかったけれど、それでもヒナは、足を止めることはなかった。
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