動き出す陰謀

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 声を掛けてきたのは、自転車に乗るヒナと同世代くらいの少年だった。  漆黒の髪に小麦色の肌、ひょろりと背の高い少年は、幼さを存分に残した人懐っこい笑みをその顔に浮かべていた。  ヒナは警戒したものの、彼の浮かべた笑顔に、少しだけ緊張を解いた。 「まいご、なってる?」 「あ、YES」  首を傾げて心配そうな顔をする少年に、ヒナは電子辞書を使いながら、片言の英語と日本語で答えを返す。 「ダイジョウブ。にほんご、すこし、はなせる。どこ、いく? つれてく?」 「あ、えと」  ヒナは自分たちが泊まっているホテルの名前と所在地を彼に伝えた。  彼は嬉しそうに微笑むと、ヒナに自転車の後ろへ乗れとジェスチャーしてきた。  どうしようかと逡巡する。  このままついていってもいいのだろうか。  樹は言っていた。  外国は、日本と比べて治安が万全とは言い難い。迂闊な行動が大変な事態を招くかもしれないと、真剣な顔で忠告された。  その言葉を裏付けるように、先ほど危ない目にも遭い掛けた。  警戒を怠らず、ヒナは今一度目の前の少年を見た。  心配そうに自分を見つめる彼の瞳には、悪意や嘘は見えない。  ただ純粋に、見ず知らずの外国人である自分を心配してくれている。  少なくとも、ヒナにはそう思えた。  彼はきっと大丈夫。  ヒナは微笑んだ。  聞いてもいないのに道案内をするといきなり申し出て、車に押し込めようとした男達と、彼は違う。  ヒナは自分の直感を信じることにした。 「ありがとう。案内してください。お願いします」  ヒナは頭を下げて、そう言った。  少年は、ホッとした顔で、 「まかせて!」  嬉しそうに答えた。
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