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「はい、ヒナちゃん。お疲れ様ー、これご褒美ねー」
にゅっと目の前にジュースを差し出され、ヒナは思わず受け取ってしまう。
「え、と、徹さん、ありがとうございます」
飲んで飲んでーと、邪気のない笑顔で徹はヒナを促す。
ペコリと頭を下げて礼を言うと、ヒナは言われるままそれを口にした。口に含んだ時、喉がカラカラだったことを思い出す。冷たくて爽やかなフルーツの甘みが、身体中に沁み渡るようだった。
ジュースを口にするヒナを呆然と眺めながら、徹はなぜか不可解な表情を見せた。
思い通りに行かないと言ったような、途方に暮れたような、そんな顔。
けれど、ヒナと目が合った瞬間、浮かんだ感情は跡形もなく消え去ってしまい、元の掴み所のない笑み顔に戻ってしまう。
「……いっちゃんがさー、どーしてもヒナちゃんがいいって言うこと聞かないんだよねー。もう仕方ないからさ。オレ、妥協案を考えた訳よ。ヒナちゃんさ、アレになってくんないかな?」
――――あれってなに?
ヒナは首を傾げながら徹を見つめる。
底意地の悪そうな笑みが、柔和にみえる徹の顔に張り付いていた。
「いっちゃんの専属娼婦。あの子が結婚するまでの、ね。良い妥協案だと思わない? それくらいしかキミ、利用価値ないよねえ。あ、自分はいっちゃんの彼女とか結婚してくれるとか、そんな勘違いしないでねー。いっちゃんキミに優しくすると思うけど、あの子、大人になったらそれ相応のご令嬢娶るんだから」
「え……そ、んな」
色をなくしたヒナの顔が衝撃に強張ってゆく。頭は怒りで熱くなるのに、血の気が引いて身体は凍えるほどに冷たくなり、小刻みに震え出す。
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