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「なに、その顔。不服なの? あははっ、贅沢だねえ。分相応、キミにはぴったりだと思うんだけど。いっちゃんに言われるまま、足だけ開いてたら良いからさあ。頭悪いキミでもそれくらい出来るよねー? キミってホント予想外で困るよ。まさか無傷で戻って来ちゃうなんてさあ」
自嘲を滲ませながら、徹はクツクツ肩を揺らす。
「どうして徹さんは……そこまで私を嫌うんですか?」
悪意に染まった徹の言葉に、ヒナは戦慄を覚える。
力が入り、手にした紙コップがグシャリと歪む。こぼれたジュースが掌をしたたり落ちてゆく。掌に感じる凍てつくような冷たさは、徹の眸のようだとヒナは思った。
けれど、まっすぐに逸らすことなく、ヒナは彼の内心を推し量るように見つめ続けた。
「……まっすぐな、生意気な目。ムカつくねえ。壊したくなるじゃない。……ホント、帰ってこなかったらよかったのに」
感情の見えない冴え冴えとした双眸で、徹はヒナを射る。
ヒナの唇が言葉を刻むように小さく震えた。遠くで聞こえる海鳴りが、ヒナの耳には白々しいほど虚ろに響く。
「いっちゃんぐらい名門のご令息ってさー、あの年から婚約者とかいて当然なんだけどねー。いっちゃんことごとく断るんだよねえ。キミがいるからって」
「……婚、約者?」
呼吸が止まる。
両目を大きく見開いて、悪魔のような徹の姿を捉えた。
喘ぐように、浅く息を吐く。
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