1393人が本棚に入れています
本棚に追加
走り去るルカの背を、樹は激しい焦燥の滲む目で見つめた。
本当はルカよりも早く、今すぐに、ヒナを助けに行きたい。
その気持ちを唇を噛み締め、必死で耐える。
確認しなければならないことがあった。
今はまだ、動けない。
その時、ルカが去るのを確認したかのように、柱の隅からスッと影が伸びる。樹は、影を作る男の姿を捉えた。
静かな面持ちで目の前に佇む男を、樹は燃えるような憎悪の眼差しで睨め付ける。
「これは、ボクの指示じゃない。誰に言われた?」
正面に設えられたカウチに歩み寄り、どっかりと腰掛けた徹に向けて、樹は静かな声で問う。
「オレは知らないなー」
いつものように軽い、徹の口調。
けれど、彼に浮かぶ表情は、凍て付いたように静逸で、全てを受け入れる覚悟を決めたものに見えた。
「ボクの指示と並行して、徹はもう一つ、誰かから指示を受けていたね。ボクが分からないとか思った? ……甘く見るなよ」
激しい怒りを滲ませながら、徹を追い詰めるべく、樹は手持ちの札を明かしてゆく。
「わざとヒナを単独行動させて、雇った男達に襲わせようとした。それはボクの指示じゃない。……鷹城コンツェルンの内部分裂と関係がある。だろ?」
その言葉に、徹の頬が引き攣った。
最初のコメントを投稿しよう!