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「ボクにヒント出しまくってただろうが。答えろ」
今回のことは全て、父・総一郎にも伝えてある。
総一郎は、日本で起きている鷹城コンツェルンの内部分裂を収めるために奔走していた。
これは、過去形。
今、総一郎は別件で動いている。
鷹城の命運を決める大事なこの時期。敢えてこの時期に、総一郎の第一の腹心である徹が、自ら樹と同行すると言い出したわけ。
そこに、ヒナ誘拐の真相についての答えがあったのだ。
「……椎菜、だね。徹が一番大切にしてる、あの娘」
「……いっちゃん……」
徹の眸が驚愕に歪む。膝を押さえつける掌には白い健が浮かび、小刻みに揺れていた。
「いっちゃん。オレは椎菜を……娘を捨てられない。見捨てることが出来なかった。……ごめん」
「だろうね。父さんは全部知ってるよ。椎菜を助けるために、今、動いてる」
徹は瞬いた。
樹は忌々しげに舌打ちを鳴らす。
「人のアキレス腱ばっかり狙いやがって。あの女、分かってるのかな。敵に回した相手の大きさを」
――――鷹城晶。
曾祖母の血縁に当たる大叔母の名を、樹は歯噛みしながら呟いた。
肯定するように、徹は苦しげに瞼を閉じる。
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